<すべての事業の取引が対象に>
この4月24日大阪国税局から衝撃的な文書回答事例が公表されました。
電子帳簿保存法(以下「電帳法」という)の成立以降、収益事業を行う学校法人において、電子帳簿保存の対象となる「電子取引の取引情報に係る電磁的記録(以下「電子データ」という)」は収益事業に関するものだけでよいのか、それとも収益事業を含むすべての取引が対象となるのか、電帳法においてはその定めがないため、どちらなのか明らかではありませんでした。
実際に私の関与先からも質問がありましたし、公認会計士仲間でも議論になりました。電帳法で収益事業のみという規定がないのだからすべての取引が対象になるのではという意見がある一方で、法人税の課税対象事業以外に保存を強制する実利がないという意見や学校法人の実務上すべての取引について保存するのは困難という声も聞こえていました。
結論から言うと、文書回答事例では、学校法人(公益法人等)が青色申告法人である場合、収益事業を含むすべての事業の取引に関する電子データの保存が必要とされました。
<青色申告法人の保存義務書類の対象は>
今回の照会者の照会趣旨は以下の通りです。
電帳法上、電子取引の取引情報について収益事業に係る事項は定められておらず、収益事業を行う場合に限り法人税の納税義務が生ずる公益法人等は、収益事業に係る申告に必要な範囲で電子取引の取引情報に係る電子データを保存すれば足りるとも考えられるため、確認する。
これに対し、大阪国税局は以下のように理由を回答しました。
まず、法人税法上、収益事業を行う公益法人等において、備付け、保存を要求される帳簿書類は青色申告法人か否かによって区分されることを示します。公益法人等が青色申告法人の場合は、下記で見るように青色申告以外の法人である場合の定めとは異なり、備付け保存する書類の対象が「収益事業に係る取引に関して」とされていないことから、収益事業を含む全ての事業の取引に関する書類を保存しなければならないこととされているのです。
公益法人等の区分 | 帳簿書類の備付け、保存の義務 |
青色申告法人以外の法人 | ・現金出納帳その他必要な帳簿(法法150の2①、法規66①) ・収益事業に係る取引に関して、相手方から受け取った注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し(法規67①) ・棚卸表、貸借対照表及び損益計算書並びに決算に関して作成されたその他の書類(法規67②) |
青色申告法人 | ・仕訳帳、総勘定元帳、その他必要な帳簿等 ・棚卸表、貸借対照表及び損益計算書並びに決算に関して作成されたその他の書類 ・取引に関して、相手方から受け取った注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し (法法126①、法規54、59①) |
<電帳法は法人税法の特例を定めるもの>
電帳法第7条では、法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、一定の要件に従って、その電子データを保存しなければならないこととされています。この場合の「電子取引」とは、取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいいます。)の授受を電磁的方式により行う取引をいうこととされ(電帳法2五)、この「取引情報」について収益事業に係る事項は定められていません。
一方で、電子データの保存範囲についての基本的な考え方は、電帳法が国税関係帳簿書類の保存方法等について所得税法、法人税法その他の国税に関する法律の特例を定めるものであることから(電帳法1)、国税関係帳簿書類について保存を義務付けている法人税法等における考え方と同様となります。このため、法人税法で保存義務が定められている帳簿書類である「取引に関して、相手方から受け取った注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び相手方に交付したこれらの書類の写し」と同様の取引情報の授受を電磁的方式により行った場合には、その電子データを保存しなければならないこととなります。
そのため、青色申告法人の場合は、収益事業を含む全ての事業の取引に関する帳簿書類を保存する必要があるとともに、収益事業を含む全ての事業の取引に関する電子データを保存しなければならないこととなるとしたのです。
公益法人等の区分 | 電子データの保存範囲 |
青色申告法人以外の法人 | ・収益事業に係る取引に関して、相手方と授受した契約書等の電子データ |
青色申告法人 | ・取引に関して、相手方と授受した契約書等の電子データ |
(出所:大阪国税局 法人税法文書回答事例 令和6年3月19日 「収益事業を行う青色申告法人である公益法人等の電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存について(収益事業以外の事業の取引に関する電子取引の取引情報について)」)https://www.nta.go.jp/about/organization/osaka/bunshokaito/hojin/240319/index.htm
<これからの実務対応は>
収益事業を行っている学校法人のほとんどが青色申告法人だと考えられますが、大阪国税局から明確に見解が示された以上各学校法人で実務的な対応を考えていく必要があると考えられます。
特に教員の研究費に係る取引についてどのように収集し、保存していくかなど検討課題があると考えられます。
<参考>
電子帳簿保存とは
申告所得税・法人税に関して帳簿・書類を保存する義務のある方が、注文書・契約書・送り状・領収書・見積書・請求書などに相当する電子データをやりとりした場合には、その電子データ(電子取引データ)を保存しなければなりません。
(宥恕期間が終了し、2024年からは電子帳簿保存法により上記要件を満たす取引の電子データ保存が義務となっています。)
どのようなデータの保存が必要なの?
• 紙でやりとりしていた場合に保存が必要な書類(注文書・契約書・送り状・領収書・見積書・請求書など)に相当するデータを保存する必要があります。
• あくまでデータでやりとりしたものが対象であり、紙でやりとりしたものをデータ化しなければならない訳ではありません。
• 受け取った場合だけでなく、送った場合にも保存する必要があります。
どのように保存する必要があるの?
• 改ざん防止のための措置をとる必要があります。
• 「日付・金額・取引先」で検索できる必があります。
• ディスプレイやプリンタ等を備え付ける必要があります。
※ 保存するファイル形式は問いませんので、PDFに変換したものや、スクリーンショットでも問題ありません
もっとくわしく知りたいときは?
電子帳簿保存法の取扱通達・Q&A・説明動画などを国税庁ホームページの「電子帳簿等保存制度特設サイト」に掲載しています。
(国税庁パンフレットより)
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